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鍵をなくした時の恐怖

数年前のこと、鍵をなくしたことがある。外食をして帰宅した時、ポケットの中にあるはずの鍵がないのだ。もしかして鍵をかけ忘れて外出したのかも・・・と思い、ドアノブを引いてみたが開かない。やはり、どこかで鍵を落としたようだ。ここで現実に引き戻された。一気に酔いが覚め不安が募り始めた。落ち着け。とにかく落ち着け。まずは外食をした店まで戻ってみた。暗い夜道、夜空を見上げる余裕などなく、ずっと下を向いて鍵を探しながら店までの道を歩く。「そういう落とし物はありませんでしたねえ」飲食店の店員が言った一言が、心に突き刺さる。その後、何往復しただろう。どんなふうに歩いて帰ったのか・・・あらゆる可能性を考えながら探してみた。それでも鍵は見つからない。僕は一人暮らしなので連絡できる家族もいないし、合い鍵を持っている人間などいない。家の中に入れる可能性は、極めてゼロに近づいた。絶望感が我が身にのしかかってくる。この先、どうすればいいのか。自分はどうなってしまうのか。大家さんに電話しようと思い立った。同じマンションに大家さんが住んでいるのだ。連絡をしてみれば、もしかすると合い鍵を持っているかもしれない。しかし・・・。その希望の光も、直後に掻き消されてしまう。そうだ、大家さんは引っ越しをしたんだっけ。引っ越しの案内が届いていたことに気がついた。その連絡先も・・・家の中だ。すでに夜の11時を回っていたが、なりふり構ってなんかいられない。今は緊急事態だ。管理人さんを叩き起こすことにした。すでに寝間着に着替えていた管理人さん夫婦に事態の深刻さを告げた。鍵をなくしたんです。家に入れないんです。管理人さんは、鍵をなくした場合などに対応してくれるサービスセンターを教えてくれた。いわゆる「鍵の110番」だ。ただ、身分証明になるものも携帯電話も持って出ていない。すべて家の中にある。どうやって我が身を証明すればいいのだろう。センターのスタッフに相談する。管理人さんが証人になることとドアを開けた後に身分を証明できるものを見せることで合意した。そして、ドアの鍵穴を壊し鍵を替えることで、無事に帰還することが出来たのだ。あの時の焦燥感と家に入れた時の安堵感は今でも忘れない。あれ以来、鍵は絶対に肌身離さないようにしている。たとえどんなに泥酔しても。